先日、「醸し人九平次(かもしびとくへいじ)」でおなじみの萬乗醸造(ばんじょうじょうぞう)さんが、義侠屋のスタッフのためにセミナーを開いてくださいました。萬乗醸造さんの歴史や、いま力を入れていることを、じっくりとお話ししてくださいました。その中心にあったテーマが、お酒の原料である「お米」。蔵元さんのお話を知ると、日本酒を飲む時間がぐっと楽しくなります。今回うかがったお話を、みなさんにもシェアしますね。ぜひ読んでみてください。
九平次が問いかける「お米とは?」
萬乗醸造さんのテーマは「discover / découvrir」。これは“発見”という意味で、意外と見えていない「お米」の部分をお客様へ伝えていきたい、と考えられているからこそのテーマです。
きっかけは、2006年。日本酒の可能性を求めてパリへ渡ったとき、九平次を飲んでもらって聞かれたのは、「どうやって造ったの?」ではなく、「原料のお米は?」という質問ばかりだったそうです。ワインの世界では、ブドウがどの土地で、どんな気候のもと、誰が、どの品種で育てられたかが、とても大切にされているそう。もちろん日本酒においても、造りの一つひとつの工程は、それぞれの蔵元さんが工夫をされて造られています。
ですが萬乗醸造さんは、この経験から、造りの前段階にある「お米」に注目することになるのです。
じつは萬乗醸造さんも、もともとは「お米を作るのは農家さんの仕事」という意識だったそうです。ところが2010年、スタッフから「自分たちも米づくりからやってみたい」という声が上がります。そこから、自らの手で米を育てる挑戦が始まりました。そして、萬乗醸造さんのお米づくりの地となったのが、兵庫県・黒田庄(くろだしょう)。山田錦の名産地です。
一枚の田から、わずか約300本
みなさんは、「一枚の田んぼから、どれだけのお酒ができるか」ご存じですか? 実際に数字を追ってイメージしてみると、日本酒がいかに貴重な飲み物かを実感できると思います。一緒に見ていきましょう。
※「約300本」は750ml(ワインボトル)換算です。一升瓶(1.8L)なら約125本、720mlなら約310本ほど。
なんと、300坪からできあがるお酒は750ml換算でたったの約300本。九平次さんいわく、これは高級ワイン「グランクリュ」の同じ面積当たりの生産本数にも満たない量なんだそうです。ブルゴーニュのグランクリュは1本2〜3万円以上することも多く、頂点の「ロマネ・コンティ」にいたっては数百万円ともいわれます。しかも、米づくりに6ヶ月、酒造りに3ヶ月、熟成に6ヶ月——合わせて15ヶ月もの時間をかけて、一本が生まれます。「高い・安い」の前に、一本に注がれた時間に目を向けてみると、日本酒の見え方が少し変わってくるのではないでしょうか?
※ワインの価格は一般的な目安です。
お米を50%まで磨くのに、かかる時間はなんと約2日間。「もっと早く磨けないものなの?」と思ってしまいそうですが、急いで精米すると機械が熱を持ち、お米が割れてしまうんだそうです。このように、お酒を醸造する前の段階で、これだけ原料のお米には時間と手間がかけられているのです。
その年の記憶を刻む=ビンテージ
お米に目を向けてみると、日本酒にもビンテージの概念が出てきます。ワインに「当たり年」があるように、日本酒でも、その年のお米の出来が味わいに大きく影響します。例えば、九平次さんがまとめられている2010年から2022年の気候の特徴と、お米への影響はこんな感じです。
| 年 | その年の気候と、米への影響 |
|---|---|
| 2010 | 日本の気候のターニングポイント。最高気温40℃やゲリラ豪雨も。 |
| 2018 | 花の咲く時期に台風が到来し、気温が下がる。米は柔らかめ(収穫量は約20%減)。 |
| 2019 | 9・10月も気温が下がらず。米は硬め。 |
| 2020 | 梅雨が長く、8月は猛暑。米は硬め。 |
| 2021 | 8月の長雨で登熟(とうじゅく/実りの進み)がゆっくり。米は柔らかめ。 |
| 2022 | 梅雨明けが早く、夏が高温。米は硬め。 |
蔵でどう醸すか、の前に、田んぼでその年の米がどう育ったか。それによって、同じ銘柄でも年ごとに味わいが変わり、その年ならではの“個性”が出てくるとのこと。そう思うと、同じ銘柄でも、毎年の一本にどんな違いがあるのかを楽しめますよね。
※気候と米への影響は、セミナーで萬乗醸造さんが示された内容にもとづきます。
酒米を「みかん」で考える
酒米には、じつにたくさんの品種があります。セミナーでは、対照的な2つの代表品種として五百万石(ごひゃくまんごく)と山田錦(やまだにしき)が登場しました。五百万石は早生(わせ/早く実る)で田植え4月・稲刈り8月末、山田錦は晩生(おくて/遅く実る)で田植え6月・稲刈り11月。このように品種によって、育つ時期が全然違います。
この違いを、九平次さんは「みかんの熟れ具合」にたとえて教えてくれました。早採りの青いみかんと、完熟した橙色のみかん。みかんでイメージすると、とても分かりやすかったです。
左の「早採り」が五百万石、右の「完熟」が山田錦のイメージです。
→ 軽快・ライトボディ
→ 熟成も可能・フルボディ
さらに顕微鏡で米をのぞくと、山田錦は中心の「心白(しんぱく)」に麹(こうじ)が入り込みやすく、外は硬く内は軟らかい、理想的な構造をしているそう。このように、品種によるお米の性質は、お酒造りに大きく影響するんですね。
黒田庄のテロワール
九平次さんの米づくりの舞台は、兵庫県西脇市・黒田庄町。ここでは、いくつもの村で山田錦が育てられています。そして興味深いのが、同じ黒田庄の中でも、区画が違えば、土も気候も変わるということ。ワインでいう「テロワール(その土地ならではの個性)」の考え方を取り入れると、品種の違いからさらに一歩、奥深い世界が見えてきます。
ちなみに、こうした土壌やテロワールといった田んぼの土や区画ごとの個性にじっくり向き合う蔵元が、少しずつ増えています。義侠屋でも、そんな造り手の想いをしっかりと伝えていきたいと思っています。
テイスティング
セミナーの締めくくりには、実際に醸し人九平次をテイスティングさせていただきました。味わったのは、山田錦と雄町という、対照的な2つの品種。飲み比べるのにぴったりの2本です。お米や品種の説明を聞きながらテイスティングをすると、より味わいの違いがわかりやすく、楽しんでテイスティングができました。
同じ蔵、同じ造り手でも、品種が変われば、味わいはこんなにも変わる。頭で学んだことを舌でも実感できた、贅沢な時間でした。
銘柄ではなく、品種で選ぶ
セミナーで心に残ったのが、この考え方でした。九平次さんはこう言います。「酒造りの技術で、Aという品種をBにすることはできない」。だからこそ、好きな銘柄を探す前に、好きな“品種(セパージュ)”を見つけることも、飲み手にとって楽しみのひとつになるのでは——と。
もちろん、日本酒の楽しみ方に「正解」はありません。お米や銘柄づくりへの向き合い方も、蔵元によってさまざまです。そのうえで、いつもの「銘柄」だけでなく、「品種」に目を向けてみるのもおすすめです。とくに品種が商品名に入っている日本酒は、その品種を活かした味わいを目指して造られていることが多いように思います。なかでも分かりやすいのが、同じ蔵の、違う品種を飲み比べること。萬乗醸造さんにも、今回テイスティングさせていただいた別誂・協田のほかに、山田錦と雄町(おまち)のお酒があります。飲み比べると、品種の違いが感じられて、楽しいですよ。

メロンや桃、スパイスが香る、ふくよかで重厚な味わい。山田錦の旨味・苦み・酸味が調和し、料理をそっと引き立ててくれます。晩生品種らしい、たっぷりとした一本です。
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洋ナシやメロンの香りに、スパイスのニュアンス。山田錦を磨き上げ、滑らかな旨味と上品な酸味、繊細な苦みが重なり合う、ちょっと特別な日の一本です。
義侠屋オンラインストアで見るこのほかにも、限定品が入ってくることも。最新の入荷情報は、義侠屋のSNSでチェックしてみてくださいね!
- 九平次は「お米とは?」という問いから、自ら米づくりへ。すべては田んぼから始まる。
- 一枚の田から採れるお酒は、わずか約300本。15ヶ月をかけた、とても希少な一本。
- 米はその年の気候を映す“ビンテージ”。品種とテロワールで、味わいは変わる。
- 日本酒の楽しみ方に正解はなし。「品種」で選ぶのも、楽しみ方のひとつ。
※本記事は2026年9月30日に萬乗醸造「醸し人九平次」が義侠屋スタッフ向けに行ったセミナーの内容をもとにした、義侠屋の学びのレポートです。数値・エピソードはセミナーでうかがった内容に基づきます。掲載の商品・価格・在庫は時期により変わる場合があります。
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